Wi-Fi機器の寿命、更新サイクル
最近5年ぶりに訪問した会社事務所の執務デスクにはモニターが置いてあるだけで、キーボードやデスクトップパソコン本体が見当たらないと言う事がありました。
事務所内の執務用パソコンに有線LANでネットワークを組むことをやめて、全て無線LANルーターを介したネットワークに変えていました。
全台数同時に稼働しても通信量が賄えるように設計してもらい、セキュリティについても問題が無いとの事で踏み切ったとのことです。
オンライン通信やweb会議も頻繁に行われている上に、仕事で使う資料のデータも飛躍的に大容量と成り、添付ファイルにストリーミング動画がある等通信量の増加は留まるところを知らず、その変化自体も非常に速いペースで進んでいます。
この様に無線LANルーターがネットワークの中枢に存在していると、通信速度の遅延や停滞が起きると原因は無線LANルーターのせいだと決めつけ、機器交換を検討しているケースに合ったことがあります。
先ずは、問題点を整理する事で、その原因を切分けできる様に検討して行く必要があります。
通信の不具合
インターネットの接続不良やその遅延そしてフリーズを伴う現象から、通信環境に不具合があると感じるのだと思います。
上記の問題に対して反射的に頭に浮かぶ対策が、ネット広告としてウェブサイトに蔓延しています。
サービスとして製品として商売し易い物が「回線販売」、「Wi-Fiルーター販売」多く、問題の原因説明はありますが、結局商品購入で解決しましょうと言う落ちで作られています。
インターネットの不具合が発生した時に一番大切なことは、原因を突き止める事です。
その原因が「回線」や「無線LANルーター」であれば、その対処方法を検討する事で、回線や機械の取替や買換え以外の方法があるかもしれません。
遅延原因
Wi-Fiを組み込みんでるネットワークの場合一般的に考えられる不具合は、Wi-Fiシステム以外では、回線速度の不足、セキュリティソフトウェアやゲートウェイの設定の問題が考えられます。
Wi-Fiシステムを原因としたものであれば、
- 他の無線LANルーターの電波との電波干渉(近隣のチャンネルでお互いに影響してしまう場合)
- 妨害電波(電子レンジや自動ドア等から発生される意図していない同調波による妨害を受けてしまう場合)
- 電波強度(パーテーションや什器などが電波障害物となったり、クライアント端末迄の距離が遠すぎて起きる減衰が原因の場合)
- ファームウェアの更新忘れ(自動更新設定されていたアップデート機能が、何らかの原因で、解除されていたりして更新できなかった場合)
- 接続端末の過多(社内異動や組織変更などの理由で新しくクライアント端末が増え、担当アクセスポイントでは賄いきれなくなった場合)
- 機械故障(主に経年劣化が原因の場合が多い)
原因特定を飛び越して対策が先に来てしまうと無駄になります。順次原因を切り分けて明らかにしてから進める必要があります。
原因の切り分け
切り分けを進めるのは、簡単に判る順番で進めるのが効率的です。先ずはアクセスポイントのインジケーターを点検しましょう。
点滅箇所は点滅により其々状態を示しています。「電源状態」「ハードウェアの故障状態」「無線通信状態」「機器状態」天井下面や壁面に見えていれば、簡単に状態を確認することが出来ます。
天井裏に設置されていて、本体が目視出来ない様な時には、SSIDで特定してから侵入して確認してください。
状態を知る手がかりが得られるのと同時に、ファームウェアの更新確認、もしくは更新作業自体を行うことが出来ます。
電源が切れている様であれば、コンセント類の差し込み確認やPoE-HUBの以上の有無を続けて見ることが出来ます。
また、1アクセスポイントのクラスター内にあるクライアント台数が容量以上に達してしまう場合にも同様に遅延等の障害が発生する事があります。
タブレットとPCを同時に使用したり、多重にアプリを立ち上げて稼働させたりしていれば同様の事が起きると思います。
不具合の原因が、無線アクセスルーターの故障である事が判った場合は同一機種に取り換えるのか、システムごと新しく更新させるのか判断する必要があります。
不幸にして故障してしまった時には、その危機が保証期間中であるのか確認しましょう。メーカーでは機器の保証期間を定め、製品保証書に認めてあります。
あわせて、保守対応契約を結んでいるときには、その内容確認は必須です。センドバック保守対応であれば、不具合原因が機器故障と特定できた場合、無償で機器交換できるからです。(取替工事は別途費用がかかる場合があります。)
Wi-Fi機器の寿命
無線LANルーターは色々な部品・材料から構成されています。使用される条件も環境も様々である為に、メーカーのWebサイトやカタログを調べても明確に記載されているのは、保証期間ぐらいで、製品の機械的寿命(使用限度)については、はっきりしません。
恐らく保証期間以上の期間である事を推測する程度です。そこで機器寿命について少し掘り下げて考えてみました。
電子機器は電子部品(CPUやメモリー等の半導体/接続配線)とそれを保持する筐体(プラスチック樹脂やアルミニウム等のケース)で構成されています。
このうち、電子部品は1つでも劣化して性能が発揮できない場合や、壊れてしまうと、いわゆる故障した状態になります。
部品メーカー製品メーカーは、共に電気用品安全法に基づく絶縁物の連続使用条件で定められている上限値40,000時間を指標に設計していると思われます。
仮に40,000時間を24稼働時間365日で年割りすると4.56年です。±1年のバラツキを考慮して機器故障が出始めるのには3年過ぎたあたりからだろうと目安を付けていると思います。
各メーカーが製品の保証期間を3年迄とするは、ここら当りを根拠としているのかもしれません。
とは言え保証期間と製品寿命とはその意味合いが異なりますので、同列に語るのはやや乱暴だと思いますが、Wi-Fiシステムの更新を意識していないと、一般的には3年経過以降に故障が出はじめて、5年目までに多くの機器が何らかの故障を抱えてしまっていて、気が付かないうちに停止状態に陥ってしまう事が有るような気がします。
更に、法定耐用年数(6年)という減価償却資産の算出に用いる指標がありますが、これは当てはめない方が良さそうです。ちなみにオフィス等で使われている電話機交換機は、通常この範疇で更新検討を行います。
スポーツジムでの事例
フルノシステムズのACERA1010実績では、屋内の使用実績で211台中3年以内に故障が発生した例はありませんでした。
更に年1回ペースで実施されるビルの計画停電対応していない状態で、電源の入り切りに依る電撃サージを受けていたにもかかわらずその後の4~6年目の3年間で故障が発生した無線LANルーターは1台だけでした。
信頼性の高い機械が空調のある室内で稼働した場合の例です。ちなみにシステム全体で見た時の故障の発生件数は、デジタルサイネージの不具合と液晶モニターの発生が多く、次いでPoE-HUBとルーターそして無線アクセスルーターの順です。
リブート
機器故障が判明した場合、現場で簡単に試すことのできる手段として、リセットボタンを押して、電源を(安全に)切断し再始動させる方法があります。この方法をリブートと呼びます。
不具合が発生し始めの時には復旧して問題が解決するのですが、それを頻繁に起こりしてしまう機器は近いうちにほぼ確実に故障し復旧しなくなります。
機器を構成する部品やその接続箇所に接触や絶縁不良個所が存在して、毎度同じ悪さを繰り返し元に戻る事は無く、そのうち部分的に再起動できなくなります。
リブートでリセットした場合には、該当機器にその記録(日時・回数・理由)を記録しておく事が肝心です。所詮10年は持たない物と考えて、管理する事を忘れないようにしましょう。
8年後
2013年に神奈川県内の事務所内執務スペースの天井下面に4台のアイコム株式会社のWAPM-APG600H設置し、2021年迄の8年間故障するまで運用稼働した事例があります。
5台の内1台が故障しており、他の4台は未だ正常に動いていました。断定はできませんが、経年劣化によるものだと判断して、新しい無線LANルーターに交換する事を判断して頂きました。
既設アクセスポイントを交換する時に、時見た目には駆らなかったのですが、プラスチック製の筐体がかなり劣化していて、取外しの際には天井の取り付け金具と本体を固定する4点の取り付け爪の靭性が失われており、爪が折れてしまうほど硬化していました。
メーカーの保証期間が3年、設計上では4年から5年、法定耐用年数では6年、現実には1台目が壊れるまで8年とすると、全台が壊れるのには10年以上かかるような気がします。
この8年の間に無線LANの規格はIEE802.11nからIEE802.11axまで4世代変わっています。
お客様は、その環境でお仕事をされている間は、気づいていませんでしたが、アクセスポイントを交換してからは、変化をある程度体感できると言っておりました。
クライアント端末の規格も併せて世代交代しているので、PCやスマホ・タブレット等の性能も充分に発揮されないという勿体ない事になる前に、計画的に更新を検討する必要があるのではないでしょうか。
故障しやすい
故障が少ない事例を紹介しましたが、壊れやすい無線LANルーターも存在します。
ホテルや寮の部屋毎に設置される小型の無線LANルーターで、非常にコンパクトに出来ている為、コンセントの裏に設置するケースやコンセント回りの狭い空間に配置する事が出きます。
この機械は場所を取らないことを売りにして作られているので、設計自体小さくする事を優先して作られている為なのか良く故障します。
目立たないのが目的なので、設置される個所は隠蔽された狭隘で熱のこもりやすい環境が劣化を促進させる原因となっているかもしれません。
配置する時には、交換する事を前提に、交換がし易い場所に設置することが、後のメンテナンスコストを抑える事に繋がります。
ちなみに、群馬県の温泉宿に納入した機器は頻繁に壊れます。環境に依るところが多いと思っていますが3年持ちません。
申し訳なく思って釈明したところ、お客様は逆に「温泉硫黄の成分が機械に悪影響を与えるのです」とのご返答でした。聞くところ、電話交換機(ビジネスホン)もだいたい5年以内故障するので、定期的に交換がある物だと思っているのだそうです。
Wi-Fi規格の遷移
Wi-Fiの規格は1997年にIEEE802.11.aとIEEE80211.b が認定されてから、その後2021年までに主要な規格更新が4回ありました。
2003年に(g)、2009年は(n)、2014年(ac)、2019年に現在最新の(ax)その他に、市販されている無線アクセスルーターの機種が少ないので一般的ではない(ad)が60GHz帯で2012年に認定されています。
規格が定まってから無線アクセスルーターに適応され販売されるまでに1年程度のリードタイムが必要です。更にPC・タブレット・スマホに搭載されるまで1~2年程度の期間が必要で、実際にアクセスポイントとクライアント端末の規格の同期が取れるには、新規格が認定されてから3年程度のタイムロスがありそうです。
Wi-Fi規格が認定されてから店頭で無線アクセスルーターが販売され次の規格の無線アクセスルーターが販売されるまでの移行期間を規格実行期間とすると7~5年程度と推測できます。
4回の大きな規格更新の推移を確認してみると、年々更新期間が短くなってきています。2000年初頭のころまでは7年間、2010年前後で6年間、それ以降の2回の更新時期は5年と短くなっています。
ax以降の規格更新は知り得ていませんが、規格としての寿命は以後も5年程度と考えるのが無難ではないかと思います。
交換機器の規格
無線LANルーターの交換工事の際に既存機器の規格を確認することが出来ます。
2011年製造の無線LANルーターの規格はIEE802.nでした。規格更新時期と大体符号します。
新しく取り付けた無線LANルーターの規格はIEEE.802.11axと途中のac規格の時代を通り越し、2世代先に更新しました。
ただ、クライアント端末の利用者から既存設備では遅いと言う訴えは無く、更新のモチベーションは機器故障に起因するものでした。
規格混在使用
アクセスポイントはWi-FiのIEEE802.11で定められている下位互換性があり、下位規格の通信端末とでも使用できるようになっています。
ですから、最新規格のアクセスポイントと下位規格のアクセスポイントと共存して使用することも出来ます。
Wi-Fiシステムのカバーする範囲が広く、複数のアクセスポイントでエリアをカバーしている様な場合には、一部の機器だけ更新する時に生じる可能性があります。
これは、最新の規格が古い規格とチャンネルの奪い合いの様な現象が発生して、待ち時間が長くなるからです。
アクセスポイントの設定セグメントの選択とチャンネル周波数の束ね方に起因しています。ケースによって結果は異なりますが、実測ベースで20~30%程度低下する事もあります。
部分的に故障した場合、システム全体の交換と成り、予期せぬ大きな買い物と成ってしまう可能性が有りますので、製品本体の寿命、規格的な寿命、を兼ね合わせて、5~6年での更新ペースを計画的に維持する事をお勧めします。
ルーターと端末の規格の不整合
アクセスポイントとPC・スマホ・タブレットの様なクライアント端末の両方のWi-Fi規格が不整合であった場合、規格に定められた通り下位互換性が働き、どちらか下位の規格にあわせて稼働します。
忘れてしまいがちですが、端末側の更新時期も管理していかないと、両社の能力が充分に発揮できないことになります。
アクセスポイントの販売に遅れる事1年程度で端末は最新型を販売しますので、新規格への移行期間の間は、焦る必要はありません。ちなみに、2021年現在ではIEE802.11axの端末は未だ市場にほとんど普及していません。
簡単Wi-Fi環境チェック
今まで無線LANルーターの「通信速度」・「同時接続能力」・「不具合の原因」について考えてきましたが、これら多くの要素を簡単にチェックする方法があります。
同一端末で、違う環境の中で使用する事です。原因の特定ができるとは言えませんが、感覚的に快適か否か、直観的に判断できるのではないかと思います。先ずはここから比べてみるのは如何でしょうか。
セキュリティ性能
セキュリティも規格で定められています。それまでメーカー任せになっていた各規格を1977年に統一して、1997年に”WEP”、それ以降2002年に”WPA”、2004年に”WPA2”、そして最新の WPA3は2018年に認定されました。
「認証方式」「暗号化方式」「暗号化アルゴリズム」「暗号の長さ」と各項目のセキュリティレベルは規格段階ごとに脆弱性が改善されていますが、解読側の技術も追いついています。
テクノロジーの進化により既存の暗号化方式が簡単に破られることも予測できます。
危機感を煽るわけではありませんがセキュリティソフトやファイアーウォール等、規格とは別範疇のアイテムを活用することによって、更に強固なセキュリティ環境を構築することが出来ますので検討は進めておいた方が良いでしょう。
まとめ
アクセスポイントの能力は、通信能力としての通信速度や同時に多数の端末接続が出来る力や外部からの侵入などに依るセキュリティ性能、そして機器故障の起きる可能性が高まる機器寿命を加味するとやはり5~6年程度更新するのがお勧めだと思います。
Wi-Fi設備の更新でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
法人向け無線LAN業者・機器メーカーの選び方 | 法人用と家庭用の無線LAN設備の違い | Wi-Fiの速度・接続性能 | Wi-Fi機器の寿命、更新サイクル | Wi-Fiのコストパフォーマンス | Wi-Fiの見積、費用構成